【ネタバレ注意】 『VIVANT』第2シーズン第2話(通算12話)および第1シーズンの内容に触れます。
第2話以降、「内部に裏切り者がいるのではないか」という見方が一気に広がった。名前が挙がっているのは主に二人。公安の東条と、天才ハッカーの太田梨歩である。
東条については別の記事で書いた。この記事で扱うのは太田だ。
そして先に言っておくと、東条の方が裏切りの可能性は高いと踏んでいるが太田のほうが不気味であると言える。
なぜなら東条の場合、疑いは「裏切っているかどうか」で完結する。だが太田の場合、本人が裏切っている自覚すらないかもしれないからだ。
前提:太田梨歩は、組織の外にいる
議論の前に、彼女の立ち位置を確認しておきたい。
太田梨歩は、世界トップクラスのハッカー「ブルーウォーカー」の正体である。しかし彼女は公安の人間ではない。別班でもない。ただの協力者だ。
この点は見落とされがちだが、重要である。組織に属していないということは、組織の保護も、組織への忠誠義務もないということだ。そして同時に、組織から見れば最も御しやすい相手でもある。
天才的な能力を持ちながら、身分としては無防備。これほど利用しやすい駒はない。
違和感①:第2シーズンの太田は、従順すぎる
第1シーズンの太田は、もっと角のある人物だった。皮肉も言えば、自分の意見も持っていた。
それが第2シーズンでは、妙に素直になっているという指摘が出ている。
もちろん、これは慎重に扱うべき点だ。演者が交代しており、印象の変化はそこに由来する可能性がある。実際、太田梨歩役は第2シーズンから花岡すみれさんに交代している。
キャスト変更についてはこちらの記事にまとめている。
とはいえ、役の性格づけそのものが変わっているなら、それは演出の意図だ。演者が変わったからといって、キャラクターの人格まで変える必要はない。あえて変えているなら、理由がある。
違和感②:なぜ、彼女は眠っていないのか
第2話では、太田が疲弊している様子が繰り返し映される。一度ではない。何度もだ。
演出として、これは明確なサインである。繰り返し映されるものに意味がないことは、この作品では稀だ。
素直に考えれば「激務だから」で済む。別班の作戦を支える立場なら、寝る間もないだろう。黒須への恋心故の心配が強いかもしれない。
だが、もう一つの仮説がある。
別の仕事も並行しているなら、眠る時間はさらに減る。
違和感③:「読み込みが早すぎて驚いています」
ここが核心である。
第2話で太田は、新庄が映っている映像を入手してみせた。それまで手が出せなかったはずのものを、である。
しかも不自然な点が重なっている。
- 新庄が空港から降りる場面だけ、都合よく映像が残っていた
- 本人の想定よりも早く、映像を出すことができた
そして彼女は、こう漏らしたとされる。
「読み込みが早すぎて驚いています」
——なぜ、驚いたのか。
読み込みが速いということは、すでにキャッシュが残っていた可能性がある。つまり、その領域には、以前から誰かが侵入していた。
そして、その侵入者が東条や他のハッカーによるものではなく彼女自身だったとしたら。
第一、天才ハッカーである太田がハッキングを許すとはあまり考えにくい。
自分がやったことに、自分で驚いている。
これが演技でないとすれば、答えは一つしかない。彼女は、自分がやったことを覚えていない。
【仮説】記憶のない裏切り者
ここからは推測になる。だが、この作品なら十分にありうる推測だ。
整理するとこうなる。
- 太田は、敵側のハッカー業務も担わされている
- しかし、その記憶がない
- だから自分のキャッシュに驚き、自分の速度に驚く
「そんな都合のいい設定があるか」と思われるかもしれない。だが思い出してほしい。この物語は、最初から人格の分断を描いてきた作品である。
乃木憂助には「F」という別人格がある。冷徹に最適解を選ぶもう一人の自分を、彼は内側に飼っている。人格や記憶が分かれるというモチーフは、すでにこの作品の射程に入っている。
さらに補強材料がある。第2話で、アリが乃木について「二重人格を認知している」という趣旨の発言をしたとされる。あなたは、もう”一人の人格があることを知っているんですね”と。そしてその人格の乃木さんが大嫌いだと言った。
わざわざ二重人格を「認知している」乃木を強調した描写は、裏を返せば認知していない者もいるということだ。
その一人が、太田だとしたら。
彼女は、別人格を知らないまま、自分自身も分裂している。
これほど残酷な構図はない。
もう一つの可能性:脅されているだけかもしれない
記憶の分断という説は劇的だが、もっと平凡で、もっとありそうな説明もある。
彼女は、誰かに脅されて動いている。
ネット上では、「太田は野崎に怯えているように見える」という指摘が出ている。同じように怯えて見えるのが東条だという声もある。
前述の通り、太田は組織に属していない。守ってくれる組織がない人間は、脅しに弱い。
もしそうなら、彼女は裏切り者というより被害者ということになる。そして「眠っていない」のは、眠らせてもらえないからということになる。
そしてもう一つ、厄介な可能性がある。
前回、1544のホテルの部屋で、野崎は乃木の叔父と会っていた。
だが第2話に、その件に関する描写はない。
もしあのときの野崎が変装した何者かだったとしたら——
太田と東条が怯えている「野崎」は、
本物ではないのかもしれない。

見落とされている接点:長野専務との関係
もう一つ、第2話を経て意味が変わった点がある。
第1シーズンで、太田梨歩には長野専務との不倫が取り沙汰されていた。当時それは、長野を「だらしない中年男」に見せるための材料でしかなかった。
だが第2話で、長野は別班だと判明した。
そうなると、あの関係の意味が反転する。世界トップクラスのハッカーと、別班員が接触していた。 偶然だろうか。
ブルーウォーカーを引き入れたのは長野だったのではないか。
もしそうなら、太田は「たまたま協力している部外者」ではない。別班員によって、意図的に物語の中心へ連れてこられた人物ということになる。
そして——引き入れた人物がいるなら、引き抜こうとする人物がいてもおかしくない。
長野専務については第2話の考察記事で詳しく書いている。
東条との関係——どちらか一方なのか
ここまで太田について書いてきたが、東条についても同様に多くの疑いが向けられている。
そこで問いになるのが、「どちらか一方が裏切り者なのか、それとも両方なのか」である。
考えられる構図は3つ。
| 構図 | 内容 |
|---|---|
| 東条が単独 | 太田の不審な挙動は、疲労とミスリード |
| 太田が単独 | 東条の挙動は、別班の詳細を知らされていないだけ |
| 二人とも関与 | ただし、互いを知らない/どちらかが自覚なし |
個人的には、三つ目が最も『VIVANT』らしいと思っている。この作品は、単純な二択を用意しておいて、その両方を裏切ってくる。
この説の弱点
公平のために、否定材料も挙げておく。
- 単に激務で疲弊しているだけという説明で足りる
- 「読み込みが速い」ことには、技術的な別の説明がつく可能性がある
- 従順に見えるのは、演者交代による印象の変化かもしれない
- そもそも、怪しく見せておいて白というのは、この作品の常套手段である
つまりこれは「そう読める」段階の考察であり、断定できるものではない。
VIVANT2は、第1シーズンを観ていない人でも一定楽しめるように 作られている。そうであれば、伏線が分かりやすく、 より裏切り者らしい東条が、そのまま裏切り者である可能性も 十分にある。
まとめ
- 太田梨歩は組織に属さない協力者であり、構造的に最も利用されやすい立場にある
- 第2シーズンでは従順さと疲弊が繰り返し強調されている
- 最大の違和感は、「読み込みが早すぎて驚いています」という一言
- キャッシュが残っていたなら、以前に侵入していたのは彼女自身かもしれない
- だとすれば、彼女は自分がやったことを覚えていない
- この作品はすでに人格の分断(F)を描いている。ありえない話ではない
- 一方で、脅されているだけという、より平凡な説明も成立する
- 第2話で長野が別班と判明した今、彼女を引き入れたのは長野ではないかという線も浮上する
裏切り者を探す物語で最も怖いのは、裏切っている本人が、それを知らない場合だ。
第3話以降、彼女がまた「驚く」場面があれば——そのときは、この説の信憑性が一段上がると見ている。私情だが、太田は恋心として黒須の生存を願って眠れていないだけと思いたい。


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