ジャンプラにまた一作、怪物が現れた
どうやら、私は見逃していたらしい。魔窟のジャンプラに潜んでいた名作を。私は今日、「MAD」に出会った。もしくは昨日だったのかもしれないが、作品の狂気にあてられた私には分からない。いつの間にか次元を超えて作品の世界に潜り込んでいたようだ。きちんと現実に戻ってこれているのかすら分からない。それほどまでに衝撃的だった。
2024年6月18日、ジャンプ+で突如連載開始された大鳥雄介先生の描く『MAD』。
そのタイトル通り、これは**「狂気(MAD)」の物語**だ。
──恐怖と暴力。
──喪失と激情。
──破滅的な美しさ。
第一話から引き込まれるような世界観と、作画の異常な熱量。
気がつけば目が離せなくなっていた。
ダークファンタジー好きにはたまらない作品だ。
※ネタバレを一部含みます
↓:ジャンプラ「MAD」1話のリンクです。
あらすじ(ネタバレなし)
舞台は、エイリアンの襲来により人類のほとんどが滅んだ終末世界。
暴力と混沌が支配し、人の理性など簡単に吹き飛ぶような極限環境で、少年たちは生きている。
主人公である青年ジョンとその妹は僅かな生き残りと共に新天地を求めて移動する日々。
そんな中、キャッチした信号から自分たち以外の人がいるかもしれないと希望を持ち目的地を定めることに。
狂った者たち、狂わされた者たち、そして──自ら“狂気”を選んだ者たち。
この作品は「何が正義か」「誰が悪か」なんて問い以上に
**「狂気の中で、どう生き抜くか」**を描いている様に感じた。
以下ではネタバレありのあらすじを含みます。
あらすじ(※ネタバレあり)
妹と共に旅をする主人公
物語は、主人公ジョンの目覚めで始まる。妹が「皆んな向こうにいるよ」と伝え、移動を共にしている仲間の元へ促される。
まるで世捨て人の様な風貌をしているジョンから、即座に旅の過酷さが伺える。
ここでジョンに対して、妹のエマは汚れ一つない綺麗な顔をしていた。そして一話を通して妹の顔に汚れの付いている描写は無かった。
人が住んでいるかもしれない場所があるかもしれないと目的地へ向かうと、そこはやはり”罠”であった。彼らは罠であると分かっていながら、希望を見出すために歩みを進めていたのだ。知性のあるエイリアンが仕掛けたのか、はたまた人間が仕組んだ罠なのか。
どちらにしろここで生き残った人物はたった2人。
この襲撃で、妹が死ぬことはなかった。妹は初めから死んでいたのだから。確かに仲間が妹に話しかけることは一度も無かったし、主人公には常に”喪失”が漂っていた。
妹の幻影に手を伸ばし空を切る。エイリアンに襲われて生き延びる事をやめようとしても、逃げてしまう生存本能。そして託されたお守りを手に思い出とともに生きることを決意する。
狂気に生きる
地下シェルターにたどり着いた主人公ともう一人の生き残った旅を共にしたリーダーは施設で保護されることに。
しかし、どうやらこの施設こそ狂気に満ち満ちた空間であった。
施設に居た人物たちの幹部らは軍人の残党であった。極限の中で生きてきた彼らは、空腹の中で倒したエイリアンの肉を食すことに。体は腐り、死んでいく彼らの中に一人だけ現れた適合者。その1つの成功例から、人を保護してはエイリアン肉を食べさせて適合者を探すようになる。
一見、狂気に見えるこの行為は人類がエイリアンに勝つための合理的な手段であり希望でもあった。彼らはエイリアンという共通敵と閉鎖されたコミュニティにより集団が一つの「家族」として生活している。特に何人かの適合者はより狂気に満ちていた。集団の精神的支柱である初めの適合者は、決して悪意を持っている訳ではない。人類の為に戦い仲間を大切に思う人格者ですらある。
そしてエイリアン肉を食わされ、脱走にも失敗した主人公は、旅のリーダーの適合失敗を見て暴走する事になる。そう、主人公は適合者となったのだ。しかもエイリアンの中でも上位個体であるツノありのエイリアンの力以上の存在となる。
匿われていた女子供の大勢を犠牲にしながら好みの女性だけ逃がそうとする単純な狂気を持った適合者の一人と初めの適合者、そして一人の赤子のみ生き残ることに。彼らは人類の存続ではなく、己の感情で動きだす。
シェルター脱出後
地下施設を暴走の中完全破壊し、何とか意識を取り戻した主人公ジョンは、人格者で主人公級の兵士ボブの一人と彼の愛する女性、もう一人生き延びれた女性と共に海を目指すことに。
果たして彼らは人に出会えることが出来るのか。そして欠ける事無く生き延びれるのか。
そう思う暇なく、一人の女性が退場し3人での旅になる。まだ連載始まって一年程なので全話すぐに読み切れると思います。
ここからは是非漫画を自分で読んでみて楽しんでください!
独特な作風と魅力
この作品の最大の特徴は、シンプルながらも迫力のある作画と、映画のようなテンポの良い会話である。特に、キャラクターの感情や状況を巧みに描写することで、読者を物語に引き込む力がある。また、会話が全くない回や、会話だけで進行する回など、構成の多様性も魅力の一つである。
さらに登場人物たちは、それぞれが複雑な背景や動機を持ち、単なる善悪では語れない深みがある。特に、すでに死んでいる妹エマの力強さや優秀さが余計、主人公の喪失感を際立てているようにも感じる。陥る窮地を打開するときの精神的支えや決断の時に現れる幻影に、なぜ妹じゃなくて自分が生き残ってしまったんだという叫びが勝手に聞こえてくるようですらある。そしてなぜ死んだのか、どうして主人公はツノありの力を有しているのか等、謎や伏線はたくさん張られている。
また、リリーというキャラクターは、初めは弱々しい印象を受けるが、物語が進むにつれて強さと脆さを併せ持つ魅力的な人物として描かれている。そして彼女と愛し合う兵士ボブの一人は狂気の中で狂わずに突き進む人格者であり、まるで第二の主人公とすら思えてくる。
まとめ
ジャンプラといえば実験的な作品の宝庫だが、その中でも『MAD』は頭ひとつ抜けて異常だ。
狂気、美学、暴力、衝動──
どれか一つでも惹かれるものがあるなら、読んで損はない。
他作品と類似しているという比較はその両方の作品に対して失礼に当たるかもしれないが、狂気さや妹の表情の描写などは「チェンソーマン」に、戦闘のダークファンタジー感は「地獄楽」の雰囲気に近いかもしれない。主人公が適合して変身が可能になる感じは「東京喰種」や「怪獣八号」の様、施設の実験施設の感じは「食糧人類」の様なイメージだ。どの作品もリスペクトしているし、似てるからパクってるなんて何一つ思っていない。全て良い意味で使っている。
雰囲気としてこれらの作品の感じがある様に感じた。
『MAD』は、終末世界を舞台にしたSF作品でありながら、人間の内面や社会の闇を深く描いている。その独特な作風と魅力的なキャラクターたちは、多くの読者にとって新鮮な驚きを提供している。
そして願わくば、この作品がもっと広まってほしい。
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