絶望SFに隠された「シュールな笑い」と映画的テンポ
『MAD』の最大の発明は、極限状態の中に突如として放り込まれる「乾いたユーモア」と「シュールな笑い」のセンスです。絶望と隣り合わせだからこそ「シュールな笑い」は輝きます。進撃の巨人に少し似たような印象を抱きます。
過剰なヒロイズムを排除したリアルな諦念が、結果的に最高のお笑いを生み出しています。
シュールシーン集
シュールシーンを抜粋したいと思います。
- ジョン:「ごめん、聞いてなかった」
シュールなシーンは実は1話から登場しています。冒頭、グループが大事な話をしているのにジョンは「ゴメン 聞いてなかった」と言い、他のみんなが唖然とする雰囲気が漂います。普通は、聞き逃していても誤魔化す様な発言をしそうですが、素直に聞き返す胆力と、そしてその裏に隠されている「もう死んでも良いや」という諦念の思いが伝わってきました。
- 「俺の料理は飛ぶぞ」おじさん
同じく1話で、グループが野営しているときに「グラタン作れる?」 「最高級の物でいいなら」というやり取りもシュールな笑いの始まりだと思います。
- 筋肉と家族愛の狂人:レオン
2話:ブラック企業の謳い文句で有名な「家族!家族!」と連呼するレオンも狂気的な笑いです。ジェリコのみんながしっかりと狂っているのもおもしろいです。
- 「それで 肉は?」
2話:グループで歩いていた時にジョンは食べてくれなかったと言ったイーサン。
お腹が減ったジョンは「それで、肉は?」とイーサンに尋ねるも、結局貰えない。
貰えないのかい!というシュール展開でありながらも実は肉がエイリアンの肉で食っていたらまずかったという恐怖。まぁ食うんですけど。
- ロバート「ごめんな?難しくて」 リアム「その言い方はなんかズルくね?」
クラピカが使っていても不思議ではない最強の煽り文登場。ジェリコ内のエイリアン適応者のロバートがアホキャラなリアムに放つ言葉。
相手が自分の言った言葉を理解できてないときに使うと効果てきめんだ。
- 服を呑気に畳んでから変身しようとするロバート
ロバートは「服着たまま変身したら破けるだろ」「服も貴重な資源」とリアムに言う。そこまでは、まぁ理にかなってはいたのだが、鬼気迫る状況でも服を畳み始めるロバートにシュールな面白さを感じる。
- ファミリーの合唱「俺達は!」「1つ!!」の輪に入らない大佐イーサン
ジェリコの狂人ファミリーの中で輪に入らない大佐。唯一といって良い程のまともキャラだ。
- 「タイトルは沼の主」
リリー作による、抜け毛で作った終わった感性による呪物。「重厚感を出した」と言い方が大物風で一々面白い。事実、大物の胆力を持っているリリーなのだが。それに対して「何を思ってこれをつくったの?怖い」 と正直に言える関係のボブは尊い。
- 「うんこ撒き散らかすか」の2択
ジェリコの牢屋から脱出を試みようとするジョン。排せつ物の処理の時に鍵が開かれることからその隙に逃げ出そうと企むジョン。死んだふりという選択肢の2択目の候補で登場。
- 「単独では絶対に突っ込むなよ!」と「なんで俺にだけ言うんー」と途切れたリアム
ジェリコ崩壊の際、暴走するジョンを止めようする適応者たちの会話。ロバートは頭の弱いリアムに対してのみ、単独行動を止めさせる。
- スカッと金的
17話:リリーがオスカーに「死ねよ くそ野郎」と言って銃で急所を打ち抜きます。その後に「銃重え」と口の悪さが独り言にも影響を与えます
- 「毛は生えてくる」
20話:キャラクター紹介にて
・ジョン:毛は生えてくる
・オスカー:人間の屑
と言う様に紹介文でもシュールな笑いは続きます。
- 「”家族”にされてた」
21話:ボブが「もしレオンさんにバレたら家族にされてた」 何気ないがおもろい
- 「嗅ぐのは違うじゃん」
ボブやリリー、マヤを助けるために決意を固める最初のシーン。
エイリアンに変身できるジョンだが、同じ人間だと再確認する場面では、リリーがジョンの頭に触れ、「うおぉ お なんか ぬるぬるする」とぬめり気を確認されます。
その上で頭皮の脂汗を嗅がれ、「嗅ぐのは違うじゃん」と、ジョンは号泣するのでした。
- 「ゴ」の他に「ガ」を好む
ボブの口癖?の紹介。
- シリアスな展開が続く中での番外編「レオンの筋肉狂人」。
- またしてもリリーの傑作
25話:「ジョンのパンチで轟く雷鳴!その名も「ジョン・サンダー」稲妻をまとい、敵を滅ぼす必殺の一撃。」とドヤるリリーに対してボブとジョンは休んだ方が良いというシーン
ジョンには疲労でオカシイ物を作ってたと思われたが、実際には残念ながらジェリコの時からの感性である。パノには受け入れられてそうに見える。
- 「少し頭がはじけてる方なんでしょうか」
26話:パノがエイリアン肉を興味で食べた事を知って放ったリリーの言葉。
- ボンゴの口臭
ボンゴがリリーに「口臭っさ」と言われて、ショック受ける様な描写。また、同じ場面ではコモドドラゴンと勘違いするリリーの姿も。
リリー「コモドドラゴンだ!」 コマ枠外の柱「コモドドラゴンじゃないよ、、」
- 「突然だが、君たちは穢れている」
終末世界にありがちなイカレタ連中では無いと言い張る、 イカレタ連中のいかにもなセリフ
- パノ「ボブ久しぶりィ」 モブC「ああほんと 久しぶり・・」
パノの「久しぶり」になぜか反応する、ボブやリリーを捉えようとしたヤズール教団の一員。
- ボンゴに対して耳を塞げと言う
アルダが、ヤズール教団の自爆テロ拡声器を投げた瞬間にボンゴへ言った。短い手のボンゴに対して耳を塞げと言うが塞げたのか?
- やはり臭いボンゴ
29話:落石から助けたことで懐いてくるボンゴは、ジョンに泣きながら「くさ」と言われてショックを受ける。ちなみに口臭ではなく、毒の匂いなようだ。
- 死人を増やさない様にする親父さん。 娘の裸を全力阻止
ダッシュで娘の変身後に服を着せる、親父さんパジロ。 娘の裸を見た者は殺さないといけないらしい。
- 子供が掴んでいるドラゴンの人形を見つめるリリー
細かい描写だが、リリーはドラゴンの人形という一般的な人形を凝視する。グライアスの隠れ家の洞窟でも結局、感性は独特なままだった。
- 「ようこそ グライアスへ」
パノの父バジロが言う「ようこそ グライアスへ」という決め台詞を 「気に入ってるんですか」 とややメタ的に言ってしまう グライアスの人。
- 恐怖の現代アート 切断された手足の連なり
「おててさん達も頑張れ頑張れって応援してる」と言って、パノは手や足の切断面を地面突き刺して作る。現代アート越えの未来アート。いや終末世界なので終末アート。
修行の時間経過を切断された手足の数で表現する最高にサイコパスしてる。訓練量=切った手足数
そして後々ヤズール教団がリリーのアートや修行の手足を見て、邪悪と恐れるまでがセットです。
- パノに読み書きを教える爺さん
「本当に・・苦労した」 実感にじみ出ているお父さん
- 堕神という名称 「ええ、今私が名づけましたから」
ジョンやパノの適応者に対して、堕神と呼ばれてるなんて知らなかったと狂信者は言うが、ヤズール本人は今名付けたと。
- アルダが好きぃなルオ「セリオスはキモいから無理」
- どうせ死ぬなら、一矢報いようと皆が決意する中「絶対に嫌です」と言える外国人っぽいモブ
- 43話:ジョンさんだ・・・!とリリーの「ジョン・サンダー」
- アルダ好きのルオ「お前の望みをなんでも一つ聞く」に対してデンジみたいな反応をするルオ 唇へのキスを所望している。
こう見るとシュールな笑いの一端をリリーが担っているのが分かります。
暗い世界観での光のような存在。進撃の巨人で言う所のサシャブラウスの様に思えたりします。
良い作品には魅力的なキャラ、特に雰囲気をリセットしたり、明るくしてくれる存在がいる様に感じます。
過剰なヒロイズムや大げさなセリフ回しは排除され、リリーがオスカーを金的したときの「銃重え…」といった冷めた、それでいて生々しいリアリティのあるセリフが飛び出します。 このB級映画のような独特のテンポ感と、絶望に対する諦念が混ざった空気感は、『チェンソーマン』などの作品が好きな人にはたまらないはずです。
シリアスなシーンであればあるほど、ふとした瞬間に差し込まれるシュールなやり取りが、世界観の狂気をより一層引き立てています。

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