近年増えているなろう系小説について自分なりの考えを共有します。主に男性の読者層に対しての分析です。
なろう系とは
そもそもなろう系小説とは何でしょう。一般的に言われている事としては、小説家になろうサイトにある小説の事を言い、内容の多くが文学的でない為、蔑称とされる場合もあります。しかし、私は小説家になろうサイトにあるからと言って全てがなろう系に分類される訳ではないと考えます。月川翔監督の「君の膵臓をたべたい」、塚原あゆ子監督の「わたしの幸せな結婚」などは実写映画化までされていて、なろう系という分類からは逸脱したジャンルもあります。
逆に他の小説投稿サイトでもなろう系に分類されるものがあります。それは「異世界転移・転生」モノや「悪役令嬢」ものといったジャンルであり、多くが主人公の都合の良い展開で進む物語です。私はこのような「なろう系」というくくりは既に少年ジャンプ的な王道ヒーローもの、BL、ミステリーといった大きな枠として新たな文学となっているのではないかと考えました。
このサイトではなろう系の内、「異世界転移・転生」といったなろう系と言えばで思い浮かべるだろうジャンルに絞ってこれらのジャンルに耽る心理について考察していきたいと思います。
また、本記事では一部なろう系を見る人の心理を貶す様な書き方をしている部分がありますが、私自身はなろう系が大好きであり今でも好んで読んでいるので自虐してると見て貰えると助かります。
理想を体現する存在
ここでは少し酷な分析をします。物語を読むうえで最も感情移入する主人公を取り巻く環境についての考察です。
チート無双
なろう系主人公の多くはチートスキルを持っています。またスキルという体をなしていなくとも現代知識やステータス、適正などで周りとは異質な存在として描かれます。これに共感することで現実での不満を異世界で解消することが出来ます。現実世界で勉強や仕事が上手くいっていない可能性があります。 いえ、ある程度は上手くいっていたとしても現状に満足していない傾向があると思います。
ヒロインからの無条件の好意
誰かの一番になるという快感は人間関係において何にも代え難いものがあると思います。主人公と性的な関係に進んで成りたがるヒロインもいます。 現実世界で異性と付き合ったことが少ない人物の妄想の具現化でしょう。
また、向こうから一方的に主人公を好きになってくれる場合が多いように思えます。通常の恋愛物語よりも自分への向かう好意の片側矢印が多いです。
主人公が仕方なくヒロインたちを受け入れることに、少し歪んだ優越感があると推測されます。好意を無下にしたく無いからと、やれやれ感で受け入れる展開が多いと思います。現実では消極的な恋愛、つまり受け身でしか恋愛をしてこなかった人たち、もしくは全く恋愛経験のない人が多いのではないかと思います。
奴隷を得る
異世界で定番と言えば奴隷の存在です。もともと中世ヨーロッパ的な時代設定に近いものがあるので登場してきます。
主人公の購入する奴隷の多くが巨乳か美女か獣人か幼女です。 それも不幸な環境から救い、奴隷も喜んで買われる都合の良い理由で購入します。奴隷たちは戦いに嫌な顔せず参加し、主人公は彼女らに成長を促して上げます。奴隷より強い存在でありながら時に奴隷に護衛され、さらに彼女らのピンチに駆けつけます。
また主人公と夜の相手も喜んで行います。救われたことに感謝し、一生仕えようとします。
奴隷に獣人が多いことは迫害や差別により奴隷になるに十分な理由にしやすいことはあると思われますが、猫や犬の様なペット感を感じたい欲求があるのでしょう。
史実にある様な奴隷を酷使するような扱いをするわけではないのですが、私には近年問題となるパパ活的な心理があるのではないかとも思ってしまいます。
おっさんからの転生
自身の容姿に不満を持つ人はその差はあれど多くが抱えるものでしょう。おっさんや冴えない中高生が転生しイケメンに生まれ変わるのは現実の容姿に満足していないからでしょう。
やり直し願望
異世界転生や2周目を生きる巻き戻りのジャンルがあるように現状を一から再スタートさせて成功したい気持ちがあるのでしょう。人間関係リセット症候群というものが現代にはありますが、それはSNSのアカウント等をすべて削除してまたやり直すといった事です。それと似たように途中までやって中断した参考書を最初からやり直したり、今までの経験とは全く違うことを一からやり直したり、新年や月明けを起点としないと気が済まない人や、立てた計画のスタートをミスると全てがどうでもよくなる人達の願望の様なものがあると思います。ある種の完璧主義の方たちです。
なにも悪いと言っているわけではありません。そのような人達の究極の願望である、生まれからやり直すことが出来る主人公に感情移入してみることで爽快に物語を見ることが出来、ある種のポルノの様に中毒になるのではないか思います。
またそのような人の中には、1章の内容が面白くても2章,3章と進むに連れて物足りなくなる感じるの人もいるでしょう。やり直しの序盤の成長具合に興奮し、最初だけ面白く感じる現象です。さらになろう系を作る側の心情としても序盤だけ強い恍惚感があり、思い思いに書くことが出来ているというような場合もあると思います。
最近ではなろう系読者から、こんな文章なら俺でも書けると書く側になるパターンも増えたと思います。とても良い事だと思いますが序盤の勢い任せの作品が増えてしまう一要因だとも考えます。
役割がある使命感と特別感
勇者召喚やパーティの要因など、何かしら目的をもっている主人公のなろう系ではその使命感や目的意識に共感する場合もあると思います。一度失敗した過去から今度こそはヒロインの事を守るなどは現実には明確にない強い決意や意志というものへの憧れる気持ちから来るものがあると思います。
シャーデンフロイデ(”ざまぁみろ”という感情)ー追放系ー
シャーデンフロイデとは他者の不幸を喜ぶことですが、有名人の不倫を叩いたり金持ちの失墜を喜んだりと、要するに”ざまぁみろ”という感情の事です。
最近では追放系と呼ばれるジャンルが流行っていました。追放系では役立たずと突き放された主人公が実は強くて陰でみんな支えていたという展開です。そしてパーティは主人公を自分たちで追放してしまったが故に真の実力が剥がれ瓦解していき、主人公を突き放してしまったことを後悔するといったものになります。
お前が俺を不当に扱ったからその報いでこうなったんだぞという、ざまぁな展開なわけです。ここで、シャーデンフロイデ的な感情に加えて実は俺は超強くて(もしくは潜在能力が秘められていて)陰で支えてやっていたんだぞという要素も重要です。
現実で置き換えてみると、本当は凄い能力があるけど組織で微妙な扱いを受けている現状に対して憤慨している人にとっては爽快な内容になると思います。
努力の顕在化
レベルが上がっていく若しくは、スキルを得る何かしらのスキル(暴食、コピー系)を持つ主人公の物語は明確に努力が実り成長する感じが快感でしょう。子供たちがゲームにはまり、明らかな上達をすることやゲーム内のキャラが強くなっていく感覚に似ています。
勉強や仕事などで成果の出づらい環境にいれば感じたいことなのかと思います。
ネット渦から漂流し、辿り着いた島
無料の島
なろう系小説のほとんどが無料のコンテンツです。一部書籍のみのものもありますがYouTubeを見たり、無料漫画を見る感覚で小説を読むことが出来ます。暇つぶしに無料のコンテンツを読んでいる。なろう系読者の多くがこの無料だから読んでいるだけでしょう。何も難しいことはありません。しいて言うなら他の本よりも何も考えずに読めるという理由でしょうか。仕事や学業の合間にわざわざ難しく、頭に負荷のかかる書物を読みたくありません。「なろう系」とはぼんやりと休める、無料コンテンツの一つとしてあるだけ。特に複雑な理由がある訳ではないと思います。
まだましだと思う心理
なろう系小説と言えど、一応は小説です。若者の活字離れが進む中で一応は活字を読んでいることになります。昔から言われてきたことに加え私の解釈も加えると
小説の登場でちゃんとした本を読め→漫画の登場で原作の小説を読め→アニメの登場でせめて元の漫画を読め→YouTubeの登場でちゃんとした作品であるアニメや映画に触れろ
と、変わっていったと思います。なろう系小説では一応文字であり小説の体裁を成しています。最近はSNSの短文しか読めなくなって、ソースも不明、文章の筆力も無いどこぞの誰が書いたかも分からんネットのブログ記事でさえもまだましだと言われています。
なろう系読者にはYouTubeや漫画を見るよりも活字を読んでいるので、まだ耐えてると思う心理もあるのかもしれません。
なぜなろう系が流行ったのか
なろう系の読者層はまず男性が7割程度であるとされています。ちなみに女性よりも作品に対して良くも悪くも評価をしないそうです。その男性の内、ウェブサイトでの閲覧は10代と20代が過半数を超えており、書籍版では中年男性が多いようです。マーケティングではよく考える必要がありそうです。
またなろう系のランキング上位作品の書き手は30代、40代が多く、これらの事実から当時流行っていたドラクエやMMOといったゲームを題材としたものが多い事もなろう系が人気を博した要因になっているかもしれません。
加えて展開に安心感がある事も広まった理由になるかもしれません。同じような展開であり、安心感があると読みやすい事も脳に負荷が少なく人気な理由なのかもしれない。ご都合主義で主人公の周りをピンチにして救うという展開。どの戦闘系物語にもあるがそれが目に見えて分かりやすく凝られていない作品が多い為揶揄されているのかもしれません。勧善懲悪ものも多く、最終的には明るい展開になる作品が多いのもなろう系の特徴でしょう。
最後に
さんざん扱き下ろしているように書きましたが、私はなろう系の様なベリーライト小説が好きです。この度はなろう系について考えたことをまとめてみました。何かの参考になればと思います。
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